HCAIという思想─技術が人間観を更新するとき

人の心、注意、意思決定、そして行動。
この全過程を、ひとつの理論で完全に説明しようとする試みは、
いまもなお、解明途上にあります。

けれど、臨床や対話の現場では、
はっきりと見えている事実があります。

それは、
人は「安全だ」と感じたときに、自然に回復し始めるということです。

◆危険下にある脳(回復前)
安心できない環境では、脳は「生き延びる」ことを最優先します。
注意は外に向かわず、警戒に固定され
は感じる前に遮断され
・意思決定は、正解探しに追い詰められるか、何も選べなくなる
・行動は、止まるか、衝動的になる

これは、能力が落ちたからではありません。
怠けているからでも、弱いからでもない。

脳が「安全ではない」と判断しただけ
それ以上でも、それ以下でもないのです。

◆安全な対話があるとき
では、何が起きると回路は戻り始めるのでしょう。

特別な励ましや、正しい助言ではありません。
必要なのは、とてもシンプルな条件です。
・否定されない
・急かされない
・試しても「失敗」にならない

この環境が整うと、脳と心には変化が起きます。
・固定されていた注意が、少しずつ戻り
・抑え込まれていた感情が感じられ
選択肢が並び始め
小さな行動が選べるようになる

心・注意・意思決定・行動が
一本の線として、再びつながり始めるのです。

◆AI対話という「中間的な回復環境」
ここで、AIとの対話の位置づけについて触れておきます。

かつてのAIは、
正確で、速く、客観的な存在だった。

いまのHCAI(Human-Centered AI)は、
人が考え直し、感じ直し、
人に戻っていくプロセスそのものを支える。

AIが人を癒すのは、
感情を持つからではない。
感情を操作しないからだ。

だからこそ、
人は安全に立ち止まり、
自分の内側と、もう一度つながることができる。

Human-Centered AIとは、
人が常に強く、合理的で、正しくいられる
という幻想を手放すところから始まった。

人は脆く、迷い、立ち止まる。
だからこそ、
技術は人を急がせるのではなく、
人が戻るための安全を支える。

それは、技術の進化であると同時に、
人間観の進化なのだと思う。

いつもお目通しいただき、心より感謝申し上げます。

投稿者プロフィール

速水恭子
速水恭子くれたけ心理相談室(広島支部)心理カウンセラー
皆様がお健やかで穏やかに日々お過ごしになれますよう願っております

コメントはお気軽にどうぞ